東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2952号 判決 1976年7月28日
被控訴人 富士銀行
理由
当裁判所も、控訴人の本訴請求は、理由がないものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるので、これを引用する。
原判決一〇丁裏五行目末尾に、次のとおり付加する。
「次に、控訴人は、被控訴人が本件相殺に供した自働債権は手形貸付債権であるので、控訴人に手形を交付しないでなした相殺は無効であると主張するが、本件の如く、相殺の結果、転付以前に遡つて受働債権が消滅する場合には、転付は効力を生ぜず、転付債権者に手形を返還すべきではないから、相殺するにあたつても、転付債権者である控訴人に手形を交付する必要はない。(最高裁第一小法廷昭和五〇年九月二五日判決民集二九巻八号一二八七頁参照)。
なお、控訴人は、手形を返還せずに相殺しうるとした被控訴人主張の被控訴人・清光農機株式会社間の特約を無効であるとし、本件相殺にあたり、被控訴人は、同会社に手形を返還しなかつたのであるから、本件相殺も無効であると主張するが、手形債権あるいは手形貸付金により相殺する場合に手形の呈示(債権の一部を自働債権とする場合)・交付(債権の全部を自働債権とする場合)を要するのは、手形債務者の保護を目的とするものであるから、手形債務者が右の利益をみずから放棄することを一概に無効とすべき理由はないので、控訴人の右主張は、理由がない。」
よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるので、本件控訴は、これを棄却する
(裁判長裁判官 小山俊彦 裁判官 輪湖公寛 山田二郎)